· 

恋情と憎悪

「何やってるの?」

 目を覚ました青年に馬乗りになって、少女は青年の首に手をかけた。

「首を絞めてやろうかと」

 正直に殺害予告をする少女に、青年は穏やかに諭した。

「そんな力じゃ、僕は死ねないよ」

 少女を乗せたまま、青年は上体を起こした。

「せめてロープを使ってくれ。なかったら、刃物の方が確実かもしれない」

 青年は少女の手を脈打つ首筋に添わせた。ここを狙えと暗に伝えている。さらには、隣の部屋にあるキッチンの包丁のしまい場所まで伝えてくる。

「相変わらず、親切な他殺志願者だわ」

 しかし、少女はキッチンに向かわず、青年の膝の上に乗ったままだ。たとえ、キッチンに行けたとしても、本当に青年を殺す覚悟は芽生えていない。

 青年は少女の柔らかい髪を撫でながら、耳元で囁く。

「はやくしてくれないか」

「自分で死んでよ」

「嫌だ」

「大嫌いよ」

「わかってる」

「ねえ、私のことが好きなんでしょう」

「知っていてくれて嬉しい」

「目覚めるたびに、あなたは言うのだもの」



――好きだよ

――お願いだから、僕を殺してくれ

――約束したら、君の足枷を外すから