novel

novel · 03.02.2023
 タクシー運転手の平川は街で鶏の被り物を被った男を乗せた。...
novel · 03.02.2023
「ミドリちゃんが落ちたんだってさ」  机の向きを変えて給食を囲む私たちの話題はいつも落としどころのないものだったから、その不穏なニュースはちょうどよく胸をざわつかせた。 「受験に?」 「ベランダからだって」 「大丈夫なの?」  どれだけお腹を満たしても、刺激には飢えていた。...
novel · 28.09.2021
『ライトへ...
novel · 05.11.2020
 電車が止まった。信号機を待っているらしい。  昼の電車はちょうどよく空いていて、間隔を開けて乗客は座っている。射し込む日差しは暖かく、足元の暖房も効いている。眠気を誘う電車の中で、車窓に切り取られた風景を焼き付ける。  この電車に乗っていると、いつも元に戻れない予感がする。  目的地は国立の大きな病院だ。  私の腫瘍は悪性のものだ。...
novel · 06.08.2020
 生温い風が憎らしくて、窓をまた閉めた。ぼんやりとする頭で、期限切れの牛乳をシンクに捨てる。白い液体が排水口へ流れていく。今朝も電話は繋がらず、僕と社会には隔たりがある。時計を見るのが怖くて、空の明るさを知るのも嫌で、僕にまだ名前があることも煩わしい。  祖父は僕を見て、死んだ父の名を呼ぶ。 「隆平、庭を見てこい」...
novel · 09.03.2019
 親知らずを抜いた帰り道、抜いた歯をどこか遠くに投げたいと考え、私は腫れた顔でタクシーを捕まえた。  行き先を聞かれ、ぼんやりと考えた。麻酔の効いた口の中は、舌で触れることが憚られる空洞ができている。だから、咄嗟に答えてしまった。 「トンネルを抜けてください」...
novel · 09.03.2019
 脇道を入ると、小さなパン屋があった。大通りから離れ、薄暗い路地に佇む店構えは商売っ気のなさを感じた。...
novel · 07.07.2018
 痛いという声で目が覚めた。何事かと思えば、隣で眠る息子の背に花が咲いている。枝つきのピンクの紫陽花だ。何故植物が咲いたのか、どうして突然咲いたのか。私も息子もわからない。息子は痒いのか背中に手を伸ばし、枝振りの立派な花の感覚に驚いている。 「ママ、これはアジサイ?」 「そうだね、紫陽花だ」...
novel · 02.04.2018
吐いたときの、酸っぱい感覚が思い出された。  コーヒーをかき混ぜながら、私は彼の話を聞いた。内容はシンプルだ。別れたい。よくある話で、いつものこと。そう思うのに、今回は違う。 「どうして?」  やっと絞り出した声は震えていた。暗に別れたくないという気持ちは伝わったろう。しかし、彼ははっきりと首を横に振った。 「他に好きな人ができたんだ」...
novel · 02.04.2018
 菓子折り持って、得意先に謝罪に行く。へいほーへいほー、仕事が好き。続きの思い出せない歌が頭を過る。  得意先が白雪のように美しい人ならいい。しかし、血の気が引いて白くなっているのは俺である。  持ち物は毒リンゴならいい。残念ながら、口にせずとも俺が先に倒れそうだ。  真実の愛で失敗は帳消しにならない。...

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