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まどろみ

 心地よい電車の揺れと暖かな日差しは、座席に座る私を夢の世界へと誘う。肩を貸してくれるという恋人の言葉に甘え、私は肩にもたれかかった。温もりと彼の匂い、慣れたそれらがさらに心地よい。瞼が落ちていく感覚と抗いながらも、もうすぐ寝てしまうだろうと思った。




 夢の中は透明の電車の中だった。座席まで透明だ。座席は堅いのかと思ったけれど、慣れた弾力の座席だ。透明な毛足の下には、流れる線路が見える。

 恐る恐る腰掛け、外を見る。青い空に雲が浮かんでいる。不思議な電車に揺られていると、携帯電話が揺れた。誰もいないが、電話に出ることは憚られた。しかし、いつまでも揺れる携帯電話。発信者の名前は私だ。全く、理解できない。


 私は、私にショートメールを打った。

――今、電車の中

――知ってる

 間髪入れずに返信は返ってくる。

――じゃあ、放っておいてよ

――どこに行くの?

 それは私も把握していない。


 外を見ればどこまでも青い空と草原だ。

 美しいといえば美しいが、代わり映えしない景色に飽きもくる。

「やっぱり降りるわ」

 私は窓から身を乗りだし、飛んだ。

 メールの返信はない。

 草原に降り立つと、ガタンと大きな音がした。




 目覚めると、彼が私を支えていた。

 大きな揺れで、もたれていた体が座席からずり落ちたらしい

「今、どこ?」

「もうすぐ着くよ」

 返信ではなく言葉が返ってくることに安堵した。

「私とメールする夢を見たんだ」

 それとなく、夢の話をしながら携帯電話の画面を確認する。

 メルマガが数件入っていた。

 すると、携帯電話が揺れた。



――私へ

――もう気持ちは決まった?

 彼が私へメールを送っていた。

「決まってるわ」

 私は彼と生きていく。

 二人だけの生活がもうすぐ始まる。