· 

アザレア

 絵画の中の花は枯れることなく、いくつもの白い花を咲かせている。僕は花を知り、花を抱えるブロンドの少女に恋をした。小さな花はアザレアというらしい。僕の前を通り過ぎるご婦人が言っていた。花にはそれぞれに言葉があるという。

「なんだったかしらね」

ご婦人は僕の前を通りすぎてしまった。



 僕は何年もその少女を見ていた。今、この絵の中の少女はいくつだろう。僕にはなにもわからない。



 ある日のこと、絵の中の少女は僕の前を駆け抜けた。いや、ちがう。あの少女に似ているだけだ。

「ギャラリーでは静かになさい!」

 後ろをついてくる紳士に注意され、少女は立ち止まり、一枚ずつ静かに見ていく。

「パパ!この絵、私みたいね」

 しかし、少女はまた声をあげた。紳士は少女の父親らしい。

 あの絵の前だ。ほら、君にそっくりだろう。僕は声に出さずに、喜んだ。

「本当だ。欲しいかい?」

「ええ、欲しいわ!」

 父親はギャラリーのオーナーに声をかける。

「待って!パパ!この子も欲しいわ!」

「立派な彫刻だね」

 年老いたオーナーは僕を紹介した。

「これは天使の像でして、お嬢ちゃんに似た彼女をずっと見つめているんですよ」

「ロマンチックね!ねえ、パパ!お願い!」

「仕方ないな」

 先程までの厳しい父親は甘える娘には弱いらしかった。




 僕は今も絵画の中の少女を見つめ続けている。

 そして、絵画の中の少女に似た少女は僕を「私の天使さま」と呼んだ。

「ねえ、私の天使さま。この花の花言葉をご存知かしら?」

 あのおてんば娘はもう立派な淑女となっていた。まだ知らないんだと、僕は声もなく答える。

「白いアザレアの花言葉は、あなたに愛されて幸せ」