「なにを降らせようかな?」
天使たちは雲の隙間から、下の世界をのぞいてはいたずらの話をしています。
雨にしようかと、赤毛の天使。雪にしようと、みつあみの天使。やっぱり飴がいいよと、ピンクのほっぺの天使。綺麗な宝石はどうかと、眼鏡をかけた天使。可愛いぬいぐるみを持ち上げたのは、ほくろのある天使。星屑を集めていたのは、長い裾を引きずる天使。
天使たちの意見はいつだってまとまりません。あっちもいいし、こっちもいいなとみんなは頭を悩ませます。
ひとつずつ落としてみようと、緑の目の天使が言いました。
天使たちは下に降らせてみたいものを抱えて、長い列を作ります。
雨粒はぽたぽたと、うつむく女性の睫毛へ。
雪の結晶は赤いセーターの少年の肩へ。
いちご味の飴玉はおじさんの皺だらけの手のひらへ。
透明な宝石は屋根を直す大工の青年のコートのポケットへ。
白と黒の犬のぬいぐるみは黒い犬の前足のそばへ。
星の欠片は学者の机の上へ。
ふわりふわりといろんなものが降ってくるので、みんなは何度も空を見ています。次はなんだろうと、期待で胸がいっぱいなのです。
一番最後に並んだ天使はそばかすの子。持っているのは金色に輝く毛糸玉です。
「喜んでくれるといいな」
そばかすの子は雲の隙間を覗き込みます。
最後のひとつ。大切な役目だと、腕をそろりと伸ばし、毛糸を手から離しました。
けれど、足が滑って、身体は下へとまっ逆さま。そばかすの子はひゅるるるると落ちていきます。途中で毛糸も絡まって、背中の翼が開きません。雲の隙間は遠ざかっていきます。
それを見た天使たちも急いで外へと飛び出します。
「はやく、はやく! あの子を助けないと!」
空を見ていた人々は、たくさんの天使を見て驚きました。
涙を拭いた女性は、天使を支えようと腕を広げます。
雪だるまを作っていた少年は、天使が落ちても痛くない雪のベッドを作ります。
飴を食べたおじさんは、天使を包みこめる毛布を抱えて木の上まで登ります。
屋根を直した青年は、天使を受け止めようと屋根から屋根へと飛び移ります。
遊んでいた犬は、この土なら柔らかいぞと吠えて天使に知らせます。
発表を終えた学者は、天使の落ちる位置を割り出し車を走らせます。
そばかすの子は落ちていくなか、たくさんの声を聞きました。いつも遠くにあったみんなの声をこんなに近くに感じたのははじめてです。
そばかすの子を助けたい天使たちは風をきって飛んでいきます。そばかすの子も彼らへ手を伸ばそうとしました。そこで、ようやく毛糸がほどけて、翼がぱさりと広がります。真っ白の大きな翼です。
追い付いた天使たちはそばかすの子を順番にぎゅうと抱きしめます。
みんなは天使たちの羽ばたく姿に胸を撫で下ろしました。
「よかったね、よかったね」
みんなからの言葉に、そばかすの子はありがとうと何度もいいました。
「でも、毛糸がなくなっちゃった」
風に飛ばされたのか、あの毛糸はどこにも見当たりません。
「悲しまないで、天使さま」
女性はラベンダー色のカーディガンを天使に渡します。
少年は赤い帽子を天使に渡します。
おじさんは茶色い毛布を天使に渡します。
青年は白い手袋を天使に渡します。
黒い犬は天使に背中を撫でさせます。
学者は青いマフラーを天使に渡します。
カーディガンと帽子と毛布と手袋と犬の毛とマフラーと、みんなの大切なものがたくさん集まります。そばかすの子が両手いっぱいに抱えると、宝物はひとつに混ざり合いました。他の天使たちも手伝って、ぐにぐにと練って、細く伸ばしていくと、あら不思議。オーロラ色の毛糸ができました。
嬉しくなった天使たちはくるくると空を舞います。すると、真ん丸の毛糸玉になりました。天使たちの羽が少し混ざったのでしょう。毛糸玉は落ちることもなく、空にぷかぷかと浮かんでいます。
「なんて素敵な毛糸玉! みんなにお返ししないと!」
天使たちは寄り添いあって、お祈りをしました。
天使たちがお祈りをすると、大きな手が伸びてきて、毛糸玉に優しくちょこんと触れました。
毛糸玉はしゅるしゅると音を立てて、次々と形を変えていきます。
ラベンダー色のカーディガンには赤い花を咲かせて。
赤い帽子には黒い恐竜のシルエットを描いて。
茶色い毛布は紫と青色のアーガイル柄をあしらって。
白い手袋には青い星をちりばめて。
白と黒のぬいぐるみは白と黒と茶色のぶち模様のぬいぐるみにして。
青いマフラーには白い文字の名前を添えて。
そうして持ち主のもとにもどってくると、みんなの顔もにっこり。ふわふわの毛糸のぬくもりに包まれました。
天使たちは空の上、今日も神様に内緒のいたずらを考えています。
(おしまい)